教育・学校外活動の公開データ分析 · 分析記事
平均支出だけでは教育サービスの需要を判断できない。
要旨
公立小学校・公立中学校の学校外活動費を、支出ゼロを含む全体平均、支出率、支出者平均に分けて検証しました。同じ平均額でも支出の広がりと支出者の金額は異なります。需要や価格を判断する前に必要な追加調査まで並べます。
公式公開集計の二次分析です。査読論文・受託実績・個人や物件への予測ではありません。
研究上の問い
学校外活動費の平均額は、参加の広がりと、支出した家庭の負担額をどこまで区別して示しているのか。
対象データと方法
対象:2023年度/2026年1月16日訂正版。公式資料を確認し、数値の分母・単位・時点をそろえました。因果推定に必要な条件がない場合は記述分析に限定しています。
分析方法の確認
103機能の実行結果
- 実行確認済み
- 103
103機能を全件監査し、56機能を原表の再計算・別実装照合・頑健性・感度・可視化・用語監査へ適用しました。47機能は前提不成立の理由を保存しています。
別の説明もできるか
- 支出率と支出者平均の両方が全体平均を動かす
- 費用の高さと参加の必要性は別の問い
結果|会議で先に共有する3点
学習塾費の平均が高くても、支出率は低い。
公立小学校の学習塾費は全体平均7万5,194円・支出率39.0%。スポーツ・レクリエーション活動は6万6,529円・72.3%で、順位が逆です。
芸術文化活動は、二つの平均の方向が異なる。
公立小学校・公立中学校の全体平均は3万3,708円・2万4,077円。それに対して、支出者平均は7万2千円・7万5千円で、全体平均と方向が逆です。いずれも公表点推定値です。
支出ゼロを、そのまま未利用者にしない。
測っているのは保護者の年間支出で、支出者平均は授業料の単価でもありません。無料参加、費用内訳、回数、継続月数を別に調べてから、顧客数や値付けを検討します。
学校区分を選び、活動別の三つの指標を比べる
全体平均・支出率・支出者平均は分母と単位が異なります。支出率は利用率ではありません。
子供一人当たり年額。全体平均は支出ゼロを含み、支出者平均は当該費目への支出者のみ。
| 費目・区分 | 全体平均(円) | 支出率(%) | 支出者平均(千円) |
|---|---|---|---|
| 家庭内学習費 | 13,361 | 67.5 | 20 |
| 通信教育・家庭教師費 | 21,976 | 38.6 | 57 |
| 学習塾費 | 75,194 | 39.0 | 193 |
| 補助学習費/その他 | 1,954 | 19.1 | 10 |
| 体験活動・地域活動 | 6,331 | 33.2 | 19 |
| 芸術文化活動 | 33,708 | 46.6 | 72 |
| スポーツ・レクリエーション活動 | 66,529 | 72.3 | 92 |
| 国際交流体験活動 | 1,325 | 2.8 | 47 |
| 教養・その他 | 36,111 | 77.8 | 46 |
子供一人当たり年額。全体平均は支出ゼロを含み、支出者平均は費目ごとに支出者だけを分母とします。支出率は利用率ではありません。表は原表の学校・費目順を保持し、「補助学習費/その他」の区切りは上位費目の説明です。
図1 活動別の全体平均

図2 活動別の支出率と支出者平均

図3 学習塾費の差を二つの算術項に分ける

1.問い:平均の違いは、誰のどんな支出なのか
文部科学省「令和5年度子供の学習費調査」の2026年1月16日訂正版を用い、公立小学校と公立中学校を比較しました。費用の対象期間は2023年4月1日から2024年3月31日。学校種別表の全体平均と、支出状況表の支出率・支出者平均を、学校区分と費目名をそろえて結合しています。
主比較は、学習塾費、体験活動・地域活動、芸術文化活動、スポーツ・レクリエーション活動の4費目です。原表の順序を保ち、補助学習費とその他の学校外活動費をまたいで選んでいます。この4費目だけが学校外活動費の全体ではありません。分析用CSVには、家庭内学習費などを含む下位9費目・2学校区分の18行を残しました。
2.全体平均・支出率・支出者平均を分ける
全体平均は支出ゼロを含む子供一人当たり年額です。支出率は、その学校区分で当該費目に支出した者の比率。支出者平均は、その費目に支出した子供だけを分母にした年額です。学校外活動費の支出者と学習塾費の支出者は同じ集合とは限らず、費目ごとの支出者平均を足して総額にすることはできません。
同じ分母・同じウェイトで丸め前の値を扱うなら、全体平均は支出率を割合に直した値と支出者平均の積で表せます。ただし公表値は、全体平均が円、支出率が小数第1位の%、支出者平均が整数の千円です。公立小学校の学習塾費では39.0%×19万3千円=7万5,270円となり、公表全体平均7万5,194円とは76円異なります。原表値を保持し、積で上書きしません。
3.小学校:平均額の順位と支出率の順位は違う
公立小学校では、学習塾費の全体平均7万5,194円がスポーツ・レクリエーション活動6万6,529円を上回ります。しかし支出率は学習塾費39.0%、スポーツ・レクリエーション活動72.3%で、順序が逆です。支出者平均は学習塾費19万3千円、スポーツ・レクリエーション活動9万2千円。平均額が近くても、支出した子供の割合と支出者の年額は大きく異なります。
これはスポーツサービスの顧客が塾の顧客より多いことの直接証明ではありません。スポーツ・レクリエーション活動には習い事に加えて、イベント参加や観戦の費用も含まれます。学習塾費にも授業料に加えて教材、講習、交通などの費用が含まれます。サービスの販売形態を比較したいなら、まず集計費目と自社が提供する内容の範囲を合わせる必要があります。
4.学校段階をまたぐと、費目によって組合せが変わる
公立小学校と公立中学校の芸術文化活動を比べると、全体平均は3万3,708円と2万4,077円、支出率は46.6%と32.2%です。それに対して、支出者平均は7万2千円と7万5千円。全体平均が低い学校区分で支出者平均まで低いとは限りません。ここで示すのは公表点推定値の方向で、母集団の差が統計的に有意だとは判定していません。
体験活動・地域活動では支出者平均がどちらも公表上1万9千円ですが、支出率は33.2%と14.9%、全体平均は6,331円と2,867円です。スポーツ・レクリエーション活動は、支出率72.3%と44.4%、支出者平均9万2千円と7万7千円で、両指標とも中学校の公表値が低くなります。同じ子供の進学前後を追跡した比較ではないため、「進学で活動をやめた」「塾へ予算を移した」とは言えません。
5.学習塾費の差を、二つの算術項で確かめる
学習塾費の全体平均は公立小学校7万5,194円、公立中学校23万385円で、差は15万5,191円です。支出率は39.0%と66.0%、支出者平均は19万3千円と34万9千円。この公表値の積の差は15万5,070円となります。差の形を確かめるため、支出率差×二群の支出者平均の平均と、支出者平均差×二群の支出率の平均へ対称的に分けました。
前者は7万3,170円、後者は8万1,900円です。公表全体平均差との差121円は、表示桁の異なる公表値を用いた再構成残差として別に残します。この分け方は交差項を二分する算術上の選択で、唯一の分解でも因果分析でもありません。「参加効果」「価格効果」と名付けず、支出者平均の差に含まれる料金、回数、継続月数、費用構成を別の調査課題とします。
6.支出ゼロ、価格、参加を取り違えない
学習塾費の支出率の補数は公立小学校61.0%、公立中学校34.0%で、公式の金額分布表の0円区分とも一致しました。しかし0円である理由は、この集計からは分かりません。無料の活動への参加を含め、活動したかどうかを別に確認しなければ、支出ゼロを不参加や潜在顧客と同一視できません。
この調査は標本からの復元推計で、単純な回答者平均ではありません。有効回答数は公立小学校6,627人、公立中学校1,327人、有効回答率は34.3%と49.1%です。これらは活動別の支出者数ではありません。支出率をこの回答数に掛けて支出者標本数を逆算せず、活動別の標準誤差や共分散が未確認のまま信頼区間や有意差を付けない方針です。
7.考察:企画会議で先に確かめる三つのこと
教育サービスの企画では、①対象活動と費用の範囲、②有料・無料を含む参加の有無と支出ゼロの理由、③支出した場合の費用内訳・回数・継続月数、を順に確認しています。今回の結果は、その質問設計を具体化する資料です。どの活動が売れるか、いくらなら買われるか、供給不足があるかを直接判定したものではありません。
全国の学校区分別平均を地域の顧客数に掛けても、新サービスの売上予測にはなりません。単年度の名目額で、現在の料金や所得・地域・家族構成をそろえた比較でもありません。まず対象地域・活動の実際の費用と参加状況を確かめることを次の一手とします。
会議で何を確認するか
以下は分析結果を踏まえた調査提案です。実施済み施策や効果の実証ではありません。
教育サービスの企画会議
- 確認できたこと
- 公立小学校では学習塾費とスポーツ・レクリエーション活動で、全体平均と支出率の順序が逆でした。
- 次の調査
- 提供する活動と費用範囲を絞り、有料・無料参加、支出ゼロの理由、利用頻度を確認する。
- 判断前の条件
- 費目の支出率を、そのまま自社サービスの利用率や潜在顧客比率へ変換しない。
学校・自治体の活動支援
- 確認できたこと
- 全体平均が低くても支出者平均まで低いとは限らず、0円の理由も未確認です。
- 次の調査
- 参加希望、無料機会、費用以外の移動・時間の制約を、個人が特定されない集計で確かめる。
- 判断前の条件
- 支出額だけから活動不足や支援対象者を認定せず、学校の部活動費と学校外活動費の定義を分ける。
料金・家計説明資料の編集
- 確認できたこと
- 支出者平均は当該費目の年額で、授業料以外の費用や回数・継続月数も含み得ます。
- 次の調査
- 現在の料金明細、初期費用、教材・交通費、受講回数と期間を別に集める。
- 判断前の条件
- 支出者平均を月謝や一回当たり単価、個別家庭の必要予算として掲載しない。
原数値:活動別の全体平均・支出率・支出者平均
地域・学校種の名称は原表の日本語で表示しています。
| 学校区分 | 費目 | 全体平均(円) | 支出率(%) | 支出者平均(千円) |
|---|---|---|---|---|
| 公立小学校 | 家庭内学習費 | 13,361 | 67.5 | 20 |
| 公立小学校 | 通信教育・家庭教師費 | 21,976 | 38.6 | 57 |
| 公立小学校 | 学習塾費 | 75,194 | 39 | 193 |
| 公立小学校 | 補助学習費/その他 | 1,954 | 19.1 | 10 |
| 公立小学校 | 体験活動・地域活動 | 6,331 | 33.2 | 19 |
| 公立小学校 | 芸術文化活動 | 33,708 | 46.6 | 72 |
| 公立小学校 | スポーツ・レクリエーション活動 | 66,529 | 72.3 | 92 |
| 公立小学校 | 国際交流体験活動 | 1,325 | 2.8 | 47 |
| 公立小学校 | 教養・その他 | 36,111 | 77.8 | 46 |
| 公立中学校 | 家庭内学習費 | 12,884 | 72.1 | 18 |
| 公立中学校 | 通信教育・家庭教師費 | 21,248 | 27.3 | 78 |
| 公立中学校 | 学習塾費 | 230,385 | 66 | 349 |
| 公立中学校 | 補助学習費/その他 | 7,057 | 40.3 | 17 |
| 公立中学校 | 体験活動・地域活動 | 2,867 | 14.9 | 19 |
| 公立中学校 | 芸術文化活動 | 24,077 | 32.2 | 75 |
| 公立中学校 | スポーツ・レクリエーション活動 | 33,990 | 44.4 | 77 |
| 公立中学校 | 国際交流体験活動 | 4,305 | 2.4 | 178 |
| 公立中学校 | 教養・その他 | 19,205 | 59.9 | 32 |
子供一人当たり年額。全体平均は支出ゼロを含み、支出者平均は費目ごとに支出者だけを分母とします。支出率は利用率ではありません。表は原表の学校・費目順を保持し、「補助学習費/その他」の区切りは上位費目の説明です。
方法|実行した方法と、使わなかった方法
- 文部科学省「令和5年度子供の学習費調査」訂正版Excel
- 訂正版Excelの指定シート・セルから数値を取り出し、原本を編集・再保存せず抽出しました。
- Python標準ライブラリ(独立照合)
- zipfile・ElementTreeで原XLSXのXMLを直接読取り、別経路の抽出72数値を照合しました。IEEE754保存桁と公表桁を区別しています。
- Decimal(再計算)
- 差、比率、支出率の補数、公表値積との残差、対称算術分解を再計算。独自検定・因果モデル・価格予測は実行していません。
- 公式PDFとの照合
- 調査結果の概要の表6・7で全体平均18値、表8で通信教育・家庭教師費と学習塾費の0円比率・支出者平均を照合。調査の概要で対象期間・有効回答数・費目定義を確認しました。
- openpyxl / NumPy / Matplotlib
- 公式原表を別の読取方法で再照合し、算術分解と3種類の日英図表を生成。公表桁の精度を超える主張を避けました。
この分析の限界
- 対象は2023年度の公立小学校・公立中学校の全国集計です。私立、幼稚園、高校、特定地域へ一般化せず、2026年度の料金にも置き換えません。
- 支出率は利用率・参加率ではなく、0円は不参加の証拠ではありません。支出者平均は年額で、単価・利用回数・継続期間を分離していません。
- 全国の復元推計値です。有効回答数は活動別支出者標本数ではなく、非回答の偏りや回答誤りの影響は今回定量化していません。
- 活動別支出率・平均の標準誤差と共分散を確認していないため、信頼区間・誤差棒・有意差判定を付けていません。
- 学校段階の差は異なる在籍者集団の比較です。同じ子供の追跡、所得や地域を調整した差、進学による因果効果ではありません。
- 支出率の合計は複数活動への重複支出を含みます。支出者平均も費目ごとに分母が異なるため、いずれも活動間で単純合算しません。公表値の積と全体平均の差は残し、需要予測の誤差と呼びません。
公式出典と再現資料
- e-Stat:1 学校種別の学習費(2026年1月16日訂正版)
- e-Stat:3 学年(年齢)別,所在市町村の人口規模(学科)別の学習費支出状況 (2)小学校(2026年1月16日訂正版)
- e-Stat:3 学年(年齢)別,所在市町村の人口規模(学科)別の学習費支出状況 (3)中学校(2026年1月16日訂正版)
- 文部科学省:調査結果の概要(2026年1月16日差替)
- 文部科学省:調査の概要・項目別定義(2026年1月16日差替)
- 文部科学省:復元推計方法について
原表を保存し、URL・訂正日・SHA-256、変換手順、使用機能、限界を記録しています。表示値の丸めと、原表の丸めによる差を区別しています。
結論
学校外活動の利用状況を推定するとき、全体平均だけでは足りません。支出率、支出者平均、支出ゼロの意味を分けると、広く薄い支出と、狭く大きい支出を区別できます。ただし、参加率や現在の価格を判断するには、利用の有無、無料利用、回数、期間、費用内訳の追加調査が必要です。
