不動産・長野県19市の公開データ分析 · 分析記事
人口減少と世帯増加が重なる街の、空き家を確認する。
要旨
長野県の全19市では、人口が減っても総世帯数が増えた市が14あります。2015–2020年の国勢調査と2023年の住宅・土地統計調査を地域コードでつなぎ、人口・世帯・空き家の種類を分けて比較しました。県内58町村を対象外とする地域ケース分析で、長野県全体や全国の推計ではありません。
公式公開集計の二次分析です。査読論文・受託実績・個人や物件への予測ではありません。
研究上の問い
人口が減っても世帯が増える市では、人口変化・世帯変化・空き家の種類を分けると地域の見え方はどう変わるのか。
対象データと方法
人口・総世帯:2015–2020年/空き家:2023年確報。公式資料を確認し、数値の分母・単位・時点をそろえました。因果推定に必要な条件がない場合は記述分析に限定しています。
分析方法の確認
103機能の実行結果
- 実行確認済み
- 103
103機能を全件監査し、56機能を原表の再計算・別実装照合・頑健性・感度・可視化・用語監査へ適用しました。47機能は前提不成立の理由を保存しています。
別の説明もできるか
- 人口減少率と空き家率の関係は市域構造と住宅種別を含む
- 19市の相関は町村や個別地区へ一般化できない
結果|会議で先に共有する3点
19市中14市で、人口減少と総世帯増加が同時に起きた。
2015–2020年に人口と総世帯がともに減ったのは2市、ともに増えたのは3市。人口だけでは世帯数の動きを代用できません。分類は丸め前の増減で判定しました。
茅野市の41.5%は、危険・放置住宅の割合ではない。
2023年の空き家17,000戸のうち12,690戸が二次的住宅。賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家は2,270戸で、総住宅に対する率は5.5%です。
世帯変化との関係も、空き家の定義で変わる。
総世帯増減率との順位相関は、全空き家率で−0.319、賃貸・売却用及び二次的住宅を除く率で−0.784。19市の記述的比較で、世帯の増加が空き家を減らす効果を推定した数字ではありません。
市を選び、空き家の内訳と人口・世帯の変化を確認する
戸数、総住宅を分母とする率、空き家内の構成比を分けます。人口・総世帯の変化とは対象年が違います。
2015–2020年:人口 0.87%、総世帯 6.94%。2023年:総住宅 40,960戸、空き家 17,000戸。
| 費目・区分 | 戸数 | 総住宅に対する率(%) | 空き家内の構成比(%) |
|---|---|---|---|
| 賃貸用の空き家 | 1,980 | 4.8 | 11.6 |
| 売却用の空き家 | 70 | 0.2 | 0.4 |
| 二次的住宅 | 12,690 | 31.0 | 74.6 |
| 賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家 | 2,270 | 5.5 | 13.4 |
出典:国勢調査2020年 表1-1、住宅・土地統計調査2023年 確報主要表1。総世帯は施設等の世帯を含み、住戸数ではありません。戸数の独立丸めにより分類の和と総数が最大10戸異なります。
図1 人口と総世帯の増減を、全19市で並べる

図2 空き家4分類を、同じ総住宅分母で比べる

図3 4相関と、1市ずつ外したときの幅

1.県平均を確認したあと、比較する地域と時点を固定する
前の全国・47都道府県分析から、比較単位を長野県の全19市へ絞りました。国勢調査表1-1の2015年人口・総世帯数は、2020年10月1日の市区町村境域に組み替えられています。市コードで2023年の住宅統計と一対一に結合し、旧市町村の再掲行を除外しました。19市の必要項目に欠測はありません。
対象は県内77市町村のうち19市だけです。町村の一部に住宅統計が公表されていても、この設計では58町村をすべて対象外としました。県の統計書の沿革表は2024年3月までを収録し、最後の境界変更記載は2013年2月です。分析期間内に市の合併・境界変更の記載がないことを確認しています。ただし人口変化の終点と空き家の時点には3年の隔たりがあります。
2.人口が減ることと、世帯が減ることは同じではない
2015–2020年に人口が減った16市のうち、14市では総世帯数が増えています。両方が減ったのは大町市と飯山市、両方が増えたのは茅野市・塩尻市・東御市でした。19市合計では人口が167万5,324人から164万4,462人へ1.84%減りましたが、総世帯は65万2,247世帯から67万5,354世帯へ3.54%増えました。この合計は長野県全体ではありません。
伊那市の総世帯は26,231から26,238へ7世帯増、増加率は約0.03%です。小数第1位では0.0%に見えても「増減なし」と分類しません。また、ここでいう総世帯には施設等の世帯を含みます。一般世帯数、単身世帯数、住戸数とは別の単位で、世帯の小規模化や単身化が原因だと、この表だけで断定することもできません。
3.茅野市では、空き家の用途を分けると割合が変わる
茅野市は2015–2020年に人口が0.87%、総世帯が6.94%増加しています。2023年の全空き家率は41.5%です。空き家17,000戸のうち二次的住宅が12,690戸で74.6%を占めます。総住宅40,960戸を分母にすれば二次的住宅の率は31.0%。同じ12,690戸でも、74.6%と31.0%は分母が違います。
賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家は2,270戸、総住宅比5.5%です。この分類を「放置空き家」「危険住宅」と呼び替えません。二次的住宅も別荘に加えて、普段の住まいと別に時折寝泊まりする住宅を含みます。茅野市は数値の関係を示す例で、分析から外した外れ値ではありません。図表と相関の本集計には全19市を含めます。
4.人口と世帯、二つの空き家率を同じ条件で比べる
人口増減率と2023年空き家率のSpearman順位相関は、全空き家率で−0.144、賃貸・売却用及び二次的住宅を除く率で−0.602です。総世帯増減率との組合せでは、それぞれ−0.319と−0.784でした。4通りすべてを示すと、「人口が減るほど空き家が多い」という一文では分類ごとの差を表現しきれないことが分かります。
各市を等しい重みで扱う、観測された集計値の比較です。人口・住宅数による重み付けはしていません。総世帯変化と全空き家率のPearson相関は+0.191で、順位相関とは符号も違います。直線的な関係と並び順の関係は同じではなく、一つの係数だけで「関係がない」「説明できた」と結論づけない設計にしました。
5.一つの市を外しても、結果が変わらないかを点検する
全19市を一つずつ除外した19通りを計算しました。総世帯変化と賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家率の順位相関は−0.831〜−0.746で、茅野市を除いた場合は−0.746です。総世帯変化と全空き家率の順位相関は−0.552〜−0.249でした。特定市を外すと係数がどれだけ動くかを、都合のよい除外だけ選ばず記録しました。
人口変化との順位相関の除外範囲は、全空き家率で−0.346〜−0.059、賃貸・売却用及び二次的住宅を除く率で−0.725〜−0.531でした。人口・世帯変化と空き家率をともに小数第1位へ丸めた場合、4係数は順に−0.149、−0.598、−0.314、−0.769です。これらは感度の点検で、信頼区間、標本誤差の評価、相関同士の差の有意性検定ではありません。
6.相関の強さを、世帯の独立した効果とは扱わない
人口増減率と総世帯増減率そのものの順位相関は+0.828です。二つの指標は強く関連し、似た地域の動きや世帯構造を反映している可能性があります。この相関だけでは、それぞれの影響を分けられません。空き家率の分母は総住宅数で、総世帯数ではありません。総住宅数から国勢調査の総世帯数を引いて空き家数を作る、または両方を回帰へ入れて独立効果と呼ぶ処理はしていません。
2015–2020年の変化と2023年の住宅ストックを結合しているため、同年の需給比較でも空き家の増減分析でもありません。住宅供給、除却、築年、交通条件、観光利用、災害、空間的な依存を調整していません。19市すべてを含めても、元の住宅戸数は標本調査の推定値です。市内部の地区や個別物件の状態、価格、成約可能性へ外挿することはできません。
7.会議では、人口・世帯・利用状態を別の確認欄にする
調査企画の会議では、人口が減ったかに加えて、総世帯が増えたか、空き家のどの分類が大きいかを並べて確認しています。二次的住宅が多い地域なら利用時期と管理状態、賃貸用が多い地域なら募集条件や築年など、追加で必要な資料が変わります。ただし分類だけで対策を決定したり、現地確認なしに危険性を判断したりしません。
次の調査では、対象の市と地区を固定し、同じ時点・境域で世帯構成と住宅の建築時期を照合します。今回対象外の町村を加える場合は、未表章を空き家ゼロとせず、取得可能範囲を先に作り直します。19市の全行、原表セル、欠測処理、4相関と19通りの除外結果を残し、別の会議でも同じ数字へ戻れるようにしました。
会議で何を確認するか
以下は分析結果を踏まえた調査提案です。実施済み施策や効果の実証ではありません。
地域の住宅調査を設計する会議
- 確認できたこと
- 19市中14市では人口減少と総世帯増加が重なっています。
- 次の調査
- 人口・総世帯・世帯の種類を別項目で確認し、同じ地区と期間の資料を集める。
- 判断前の条件
- 人口減少率だけで住戸需要の減少率を代用しない。施設等の世帯を含む総世帯の定義を残す。
空き家の活用・管理を検討する会議
- 確認できたこと
- 茅野市の全空き家率と、用途を除いた率は大きく異なります。
- 次の調査
- 賃貸・売却用・二次的住宅・それらを除く住宅を分け、現地の状態と所有者意向を確認する。
- 判断前の条件
- 高い空き家率を管理不全率と呼ばない。統計上の戸数を現在の活用可能物件数と呼ばない。
市町村比較を広げる前の検証会議
- 確認できたこと
- 分類を変えると相関が変わり、人口と世帯の増減自体も関連しています。
- 次の調査
- 追加地域の公表範囲・コード・境域・時点を確認し、全対象と除外条件を先に決める。
- 判断前の条件
- 未表章をゼロにしない。相関の強さを独立効果・予測精度・政策効果と解釈しない。
全19市の原数値と再計算率
地域・学校種の名称は原表の日本語で表示しています。
| 市 | 人口増減% | 総世帯増減% | 空き家戸数 | 全空き家率% | 除く率% | 二次的住宅率% |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 長野市 | -1.28 | 4.36 | 28,700 | 15.4 | 8.1 | 1.1 |
| 松本市 | -0.88 | 4.75 | 17,050 | 13.9 | 5.7 | 0.8 |
| 上田市 | -1.77 | 2.55 | 12,180 | 16 | 8.1 | 3.1 |
| 岡谷市 | -4.66 | 0.91 | 4,300 | 18.7 | 11.6 | 0.3 |
| 飯田市 | -3.36 | 3.21 | 7,860 | 17.1 | 10.4 | 0.7 |
| 諏訪市 | -2.81 | 1.84 | 5,270 | 19.8 | 8.7 | 2.7 |
| 須坂市 | -2.3 | 2.13 | 3,140 | 14.1 | 7.6 | 1.6 |
| 小諸市 | -3.58 | 1.01 | 5,590 | 24.3 | 10.3 | 3.6 |
| 伊那市 | -3.14 | 0.03 | 6,350 | 20 | 10.2 | 2 |
| 駒ヶ根市 | -1.7 | 4.17 | 2,740 | 17.2 | 7.6 | 2.7 |
| 中野市 | -3.58 | 3.29 | 2,280 | 12.5 | 6.7 | 0.7 |
| 大町市 | -7.18 | -0.8 | 2,670 | 20.3 | 12.5 | 2 |
| 飯山市 | -8.86 | -2.32 | 1,270 | 15 | 10.5 | 0.6 |
| 茅野市 | 0.87 | 6.94 | 17,000 | 41.5 | 5.5 | 31 |
| 塩尻市 | 0.16 | 6.25 | 4,310 | 13.3 | 7.7 | 0.2 |
| 佐久市 | -1.18 | 3.73 | 11,140 | 21.3 | 9.6 | 4.9 |
| 千曲市 | -2.4 | 2.09 | 4,960 | 18.4 | 10.7 | 0.6 |
| 東御市 | 0.05 | 2.33 | 2,340 | 17.1 | 10.5 | 2.4 |
| 安曇野市 | -1.11 | 5.06 | 6,330 | 14.5 | 7.2 | 2.7 |
人口・総世帯は2015–2020年、住宅は2023年。空き家率の分母はすべて各市の総住宅数。「除く率」は賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家の率。増減率は小数第2位、住宅の率は第1位へ再計算値を丸めました。
方法|実行した方法と、使わなかった方法
- Python / XLSX XML
- 公的Excelを直接読み、地域コードとセル位置を保持して19市を一対一結合。標準ライブラリだけで再実行できます。
- openpyxl
- 別の読取方法で19市の原表228数値とコード・名称を再照合。
- statistics / SciPy
- 順位相関・Pearson相関・全19通りの除外・1桁丸めを異なる計算実装で照合。有意差検定や信頼区間は作りません。
- Polars / DuckDB / NumPy / Matplotlib
- 原表を再読取して市コードで一対一結合し、SQLで増減分類を独立確認。4組の相関と全19市除外を照合。日英図表にも反映済みです。
この分析の限界
- 長野県の19市だけを対象とし、58町村は対象外です。長野県全体・全国の代表標本ではなく、市内地区や物件への推定でもありません。
- 2015–2020年の人口・総世帯変化と2023年空き家の比較です。同時点の需給、空き家の増減、現在の募集状況を示しません。
- 総世帯は施設等の世帯を含み、一般世帯、単身世帯、住戸数と同一ではありません。総住宅数から総世帯数を引いて空き家を推定していません。
- 2023年の市の戸数は10戸単位に丸めた標本調査の推定値。内訳と総数の差は保存し、丸めだけを原因と断定しません。標本誤差は評価していません。
- 賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家は、放置・危険住宅や法的な特定空家等と同義ではありません。
- 相関は等重みの19市比較。交絡・空間依存を調整せず、人口と世帯の独立効果、因果、予測性能、投資適否を推定しません。除外幅は信頼区間ではありません。
公式出典と再現資料
- e-Stat:令和2年国勢調査・表1-1(2015年組替人口・総世帯)
- e-Stat:令和5年住宅・土地統計調査・主要統計表1
- 総務省統計局:統計表利用上の注意(10戸丸め・表章対象)
- 総務省統計局:住宅・土地統計調査の用語
- 長野県:令和5年統計書・市町村沿革(印刷19頁)
- 茅野市:令和5年住宅・土地統計調査結果の概要・表2
原表を保存し、URL・訂正日・SHA-256、変換手順、使用機能、限界を記録しています。表示値の丸めと、原表の丸めによる差を区別しています。
結論
長野県19市では、人口減少だけから住宅需要や空き家の増減を代用できません。人口と総世帯が逆方向に動く市が多く、二次的住宅を含む空き家率と、それらを除く率でも関係が変わります。地域調査では人口・世帯・利用状態を別欄にし、異時点の相関を原因や物件評価とは扱わないことが重要です。
