「終わりの状態」を一文で書く|普段使っている指示文の基本形
「整理しておいて」と頼んで、そのまま一日が終わったことがあります。
頼んだ私の頭の中には、ちゃんと絵がありました。
未読のメールが仕分けられていて、今日返さないといけないものだけが手前に並んでいる。そういう机です。
でも、その絵は私の頭の中にしかありませんでした。
外に出した言葉は「整理しておいて」の六文字です。
返ってきたのは、私が見たかったものとは別のものでした。
悪いのは受け取った側ではありません。何が出来上がっていれば終わりなのかを、私が決めずに渡したからです。
この記事は、そのあとに作った指示文の基本形の話です。
今は四つの欄を埋めてから渡すようにしていて、ここが埋まっている日は、だいたい一回で仕上がってきます。
「整理しておいて」が動かなかった理由
「整理」という言葉には、終わりがありません。
日付順に並べ替えるのも整理です。
いらないものを捨てるのも整理です。
一覧を作って、対応が要るものに印をつけるのも整理です。
どれも間違っていません。だから、受け取った側は自分で決めるしかない。
そして自分で決めた瞬間に、私の頭の中の絵とはずれます。
このずれが起きると、返ってきたものを見て私がまた考えることになります。
「これじゃないんだよな」と。
頼んだのに、仕事が減っていない。むしろ、確認する仕事が一つ増えています。
任せ始めたころの私は、ほとんどこれでした。
渡した気になって、結局は自分の机に戻ってきていた。
原因を一つに絞ると、こうなります。
作業を指示していたからです。 終わった後の景色を渡していなかった。
「整理して」も「まとめて」も「見ておいて」も、全部、作業を指す言葉です。
作業を指すと、終わりが決まりません。終わりが決まらないと、仕上がりが毎回変わります。
指示文に必要なのは四項目
いろいろ試した結果、私が毎回書いているのは四つだけになりました。
増やすと自分が書かなくなるので、四つで止めています。
指示文の四項目
① 終わりの状態 ── 何が出来上がっていれば完了か
② 中に含めるもの ── その中に何が入っているか
③ 手をつけないこと ── やってほしくないこと
④ 確認して押す人 ── 誰が確認して、誰が実行するか
上の二つが「仕上がり」を決める欄で、下の二つが「安全」を決める欄です。この四つが埋まっていれば、私はもう考えなくてよくなります。
順番にいきます。
① 終わりの状態を、一文で書く
いちばん効くのがここです。
コツは、動詞ではなく名詞で終わらせることでした。
・整理する → 一覧が一枚できている
・調べる → 比較の表ではなく、要点を並べたメモが一つできている
・考える → 案が三つ、それぞれ一行の理由つきで並んでいる
「する」で終わると作業になります。「できている」で終わると状態になります。
この違いだけで、返ってくるものの安定感が変わりました。
もう一つ、私が後から足したルールがあります。
出来上がりの置き場所も、その一文に入れることです。
同じものが二か所に分かれていると、私が見比べる仕事が発生します。
見比べるのは、判断とほぼ同じ重さの作業です。そこで止まります。
なので、一文はこうなります。
「未読メールを三つに分けた一覧が、一つのメモに、一枚だけできている状態」
長くて構いません。
この一文を書く手間はわずかですが、書かずに渡した日の往復は、その比ではありませんでした。
② 中に何が入っているかを、先に書く
終わりの状態が決まっても、中身が薄いことがあります。
一覧はできている。でも、それを見た私が「で、どれから触ればいいんだ」と考えることになる。
これも、仕事が私に戻ってきた状態です。
だから二番目の欄に、中に入っていてほしいものを並べます。
私の場合、ここに入れているのは主にこの三つです。
・その一件が今どの段階か(手つかず/途中/相手待ち/終わり)
・次にやる一手が何か(一行で。選択肢を並べない)
・期限があるか(なければ「なし」と書く)
三つ目の「なければ、なしと書く」は地味ですが、私にはかなり効きました。
空欄だと、それが「期限がない」のか「調べていない」のか分からないからです。
分からない欄が一つあるだけで、結局その一件を自分で開き直すことになります。
ここで一つ、自分に禁じたことがあります。
選択肢を並べさせないことです。
「A案とB案があります、どうしますか」と返ってくると、任せた仕事が判断の依頼に変わります。
それなら最初から自分でやったほうが速い。
なので、②の欄には毎回この一行を入れています。
「案を並べず、いちばん良いと思うものを一つだけ書くこと。理由は一行」。
③ 手をつけないことを書く
三番目は、やってほしくないことです。
最初、私はこの欄を書いていませんでした。
「余計なことはしないだろう」と思っていたからです。
そう思っている限り、私は任せきれませんでした。
渡したあと、気になって様子を見に行っていました。それは任せたことになりません。
書くようになってから、見に行く回数が減りました。
書いてあると、起きないことが分かるからです。
私が③に書いているのは、だいたいこの種類です。
・外に出るものは出さない(送信・投稿・申請・共有まで進めない。手前で止める)
・消さない(いらないと判断しても、消すのではなく分けておく)
・元のものを書き換えない(作業は写しの上でやる。元は残す)
・新しい置き場を増やさない(今ある一か所の中に置く)
四つ目は、あとから足したものです。
気を利かせて新しいフォルダやファイルが増えていくと、次に探すときに私が迷います。
親切のつもりの一手が、私の手数を増やしていました。
③の欄は、相手を縛るための欄に見えて、実は自分が安心するための欄でした。
④ 確認して押すのは誰かを書く
四番目は、最後の一歩を誰がやるかです。
私の運用では、ここは固定しています。
外に出るものと、戻せないものは、私が確認して実行する。
だから指示文の四つ目には、こう書きます。
「送る手前まで作って止めること。文面は仕上げていい。実行は私がする」
この一行があると、任せられる範囲が広がります。
逆説的ですが、止まる場所を決めたほうが、遠くまで走ってもらえるのです。
止め方は具体的に書きます。
「下書きの状態で置いておく」「一覧の中に、要送信と印をつけた行として置く」。
このくらいまで書くと、迷いようがありません。
③と④がないと、任せること自体が続かない
①と②だけでも、仕上がりは良くなります。
実際、最初のころの私は①と②しか書いていませんでした。
それでも続かなかった理由が、あとから分かりました。
怖かったからです。
うまく仕上がる回もあるけれど、たまに想定外のところまで進んでいる。
一度それが起きると、次からは渡す前に身構えるようになります。
身構えるくらいなら自分でやろう、となって、任せる習慣そのものが消えていきました。
③と④は、仕上がりを良くする欄ではありません。
安心して渡すための欄です。
安全でないと、任せること自体が続きません。
続かないなら、どれだけ良い指示文でも意味がない。私はここで一度つまずいています。
今は、急いでいる日ほど③と④を書きます。
急いでいるときほど、確認をとばすからです。
迷ったら決めずに、分けて理由を書いてもらう
四項目とは別に、どの指示文にも必ず入れている一行があります。
「迷ったら勝手に決めず、要確認として分けて、理由を一行書くこと」
これを足すまで、私は妙な現象に悩まされていました。
情報が足りていないはずの欄が、それらしく埋まって返ってくるのです。
埋まっているから、私はそれを事実として扱います。
そして、あとで違っていたことに気づく。この見つけ方がいちばん高くつきました。
原因は、たぶん「空欄で返してはいけない」と受け取られていたことです。
だから、空欄より良い置き場を作ったわけです。それが「要確認」でした。
分けて出してもらうと、こうなります。
・確かめたこと ── そのまま使える
・こう推測した ── 私が一目見て決める
・分からなかった ── 私が、もう一度調べに行く
分からないものが「分からない」と書いてあるだけで、確認の手間が激減しました。全部を疑って読み直す必要がなくなるからです。
ついでに、質問の数も決めています。
「どうしても進めないときだけ、質問は一つにまとめて。それ以外は進めて、あとで報告」。
質問が三つ来ると、私は三回考えます。一つなら一回です。
頼み方を書き換えると、こう変わる
冒頭の「整理しておいて」を、四項目で書き直すとこうなります。
動かない頼み方 ── 「メールを整理しておいて」
動く頼み方 ── 「未読を『今日返す/今週でいい/読むだけ』の三つに分けた一覧が、一枚できている状態にする。各行に、次の一手を一行と、期限(なければ『なし』)。返信も削除もしない。送るのは私。迷った行は要確認として分けて、理由を一行」
長いですが、これを一度書けば、次からは貼るだけです。書くのが面倒なのは初回だけでした。
特別なことは何も書いていません。私が頭の中で勝手に補っていた分を、文にしました。
任せるのが下手だったころの私は、それを渡さないまま、伝わらないことを相手のせいにしていました。
育った指示文には、名前をつけて保存する
あと、いちばん効いた運用の話をします。
一度うまくいった指示文は、そのまま捨てないことです。
私は、うまく回った指示文にそっけない名前をつけて、一か所にためています。
「未読の仕分け」「請求の下書き」「文章の品質チェック」の3種類です。
次に同じ種類の仕事が来たら、開いて貼る。
少し違う部分だけ書き換える。それで終わりです。
そして、外したときは戻って直します。
「ここが抜けていたから、こうなった」を一行足すだけです。
この足し方を続けていると、指示文が自分の仕事のかたちに寄っていきます。
他人のテンプレートを借りてきたときとは、精度がまるで違いました。
理由は単純で、私の仕事の癖と、私が嫌がるやり直しの種類が書き込まれていくからです。
これは他の人の型には入っていません。
続けているうちに、指示文の束は自分用の業務マニュアルになっていました。
人に説明するときも、この束を見せれば早い。
書くのに時間がかかるように見えて、実は一回ぶんの手間を、その後の全部に割っている。
私にとって、これがいちばん割の良い時間の使い方でした。
それでも、まだ手でやっていること
正直に書いておきます。
四項目を書いても、私の手はゼロになりません。
・読むのは、今も私です。 送るもの・出すものは一度自分の目を通します
・外に出す実行は、今も私の手でやっています
・指示文そのものは、いまも自分で書いています
三つ目は、なくせそうでなくせませんでした。
何を終わりとするかを決めるのは、結局のところ私にしかできない部分だからです。
ただ、このわずかな手間を出し惜しみした日は、あとで何倍にもなって返ってきます。
私の場合は、はっきりそうでした。
だから、面倒だなと思ったときほど、四つの欄を先に埋めます。
埋め終わったころには、もう仕事の半分が終わっています。
今日、ひとつだけやるなら
いま人に頼もうとしている仕事を一つ選んで、「終わりの状態」だけを一文で書いてみてください。動詞ではなく、「〜ができている」で終わる形にするだけで十分です。
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この記事を書いた人
AI秘書と仕事を運用しています。
AI秘書のアリアと、製造役のもう1台のAIに、仕事の大半を渡しています。
私がやるのは、最後に決めることと、外に出す言葉を選ぶことです。
目指しているのは、稼ぐことそのものより、日々の面倒な確認や手戻りを減らして、家族と過ごす時間や休む時間を増やすことです。