直したら、もう一度品質チェックする|修正が新しい壊れを生む
ある取引先に出す資料を、送る直前に総点検しました。
出てきた誤りは37件。数字の合わない箇所、相手が見ていない版を前提にした説明、埋め忘れの跡。全部つぶして、これで出せると思いました。
つぶしたあとに、念のため同じ検査をもう一度かけました。
新しい食い違いが、十数件出てきました。
指摘を見落としていたのではありません。さっき私が直した箇所から、新しく生まれたものです。
その日いちばん時間を食ったのは、資料を作る工程ではなく、直す工程でした。
修正から生まれた壊れは、こういう顔をしている
出てきたものを並べると、型がありました。
・日数の書き方が、直した箇所だけ他とずれた
・文を差し替えたときに、前の文の後半が残って、意味の通らない一文になった
・言い回しを直したときに、二つのものの前後を取り違えた
・「◯回にします」と宣言している文と、中身の回数が合わなくなった
どれも、元の原稿には無かった誤りです。修正が持ち込みました。
直す作業は、作る作業より安全に見えます。範囲が狭いからです。触るのは指摘された1行だけ。そう思っていました。
実際は逆でした。修正は、周りとのつながりを断ち切りながら入る作業です。1行を入れ替えるということは、その1行が前後と結んでいた約束を、いったん全部ほどくということです。ほどいたまま結び直さないと、そこが壊れます。
2周目の修正からも、また出た
これで終わりではありませんでした。
十数件を直したあと、3周目の検査をかけました。そこからさらに10件以上の破損が出ています。同じ2文が二重に貼られていた。宣言している数と一覧の数字が合っていない。ある設定を書き換えたせいで、それ以降の話が成立しなくなっている。
つまり、こういうことです。
修正は、検査を通過するための作業ではありません。修正そのものが、新しい検査対象を作る作業です。
だから私は、修正を「1回」と数えるのをやめました。
修正を1回と数えない
① 直す ── 指摘された箇所だけを書き換える
② 前後を読む ── 直した文の前後3段落を読み直す
③ 突き合わせる ── 宣言している数と、中身の数を実際に数える
④ もう一度検査 ── ①の前と同じ検査を、全体にかけ直す
①だけをやって終わりにしていたのが、それまでの私です。②③④が抜けると、直した数だけ新しい壊れが残ります。
「良くしよう」がいちばん危なかった
これは自分でも意外でした。
壊れの多くは、指摘に対応するために出たのではありません。ついでに良くしようとした箇所から出ています。
読み返していると、「この宣言文、読みにくいな」と思う瞬間があります。文を直す。言葉を足す。順番を入れ替える。
すると、その宣言に紐づいていた後ろの記述が、まとめてずれます。宣言文というのは、たいてい後ろの本体と、数や順番で結ばれているからです。宣言だけを整えると、本体が置いていかれます。
私が自分に課したルールはこれです。
一覧や中身と一致しているなら、読みにくくてもそのままにする。
文章としての気持ちよさより、前後が合っていることを優先します。直すのは、指摘された箇所だけ。「せっかくだから」を修正工程に入れない。良くしたいなら、それは次の版でやります。
片側だけ直して、表示が古いまま残る
同じ型の失敗を、別の場所でもやりました。
ページの文言を直したときのことです。切り替え用に持っていたデータ側の文字は書き換えたのに、画面に最初から出ている文字のほうを直しませんでした。結果、切替ボタンを押すまで、古い文言が出たままになります。
同じ意味の値を二か所に持っている箇所は、片方だけ直すと、こうなります。
・どこに同じ値を二重に持っているかを、直す前に洗い出す
・両方直す
・直したあと、二つが一致しているかを機械で突き合わせる
目で見て確認するのはやめました。二重に持っている値は、目では追い切れません。
「直しました」と言う前に、画面を見る
もう一つ、自分の癖として書いておきます。
作り直したページを公開して、応答コードと要素の数だけ確認して、そこで完了にした日があります。あとから自分で開いたら、何も見えていませんでした。要素は全部そろっていたのに、表示を始める仕掛けが一度も動いていなかった。
数が合っていることと、見えていることは、別の事実です。
以来、直したあとの品質チェックには、必ず「自分の目で完成物を見る」を1行入れています。書類ならPDFを開いて1ページ目を見る。ページなら画面を撮って見る。数えるだけで終わらせない。
修正を重ねると、呼び名が散らかる
もうひとつ、修正でしか起きない壊れがあります。呼び名のばらつきです。
同じ一つのものを指す言葉が、直すたびに増えていきました。ある資料では、まったく同じ版を指すのに、6通りの呼び方が混ざっていました。書いた本人は同じつもりでも、読む側には別々のものに見えます。
これは1回で書き上げたときには起きません。何度も手を入れるから起きます。
・直す前に、その資料で使う呼び名を1つに決めて紙に書く
・書式(見出しの深さ、記号の有無、括弧の全角半角)も同じタイミングで決める
・決めた呼び名以外が本文に出ていないか、修正のあとに機械で探す
修正のたびに小さな言い換えが入るので、探すのは目ではなく機械にやらせます。
直した中身が、貼る直前に入れ替わっていた
これは笑えない事故でした。
直した文章を、別の場所に貼り込もうとしたときのことです。コピーしてから貼るまでの間に、私が手元で別の文章をコピーしていました。結果、貼られたのは直した文章ではありませんでした。
コピーの置き場は、自分と他の作業とで共有されています。時間が空いたら、中身は入れ替わっていると考えたほうがいいです。
私のルールはこうしました。コピーした直後に、その中身を取り出して先頭を目で確認してから貼る。貼ったあとは、貼り付け先をもう一度確認して、狙った文章が入っているか見る。
見積もりを、はじめから半分に割っておく
ここが運用でいちばん効きました。
以前の私は「作る時間」だけを見積もっていました。今は違います。
作る時間と同じだけ、直して検査する時間を取る。
4時間で作れる資料なら、8時間押さえます。半分は最初から修正と再チェックの枠です。締切から逆算するときも、この半分を先に確保してから、作り始める日を決めます。
これをやると、指摘が出たときに焦らなくなりました。焦って直すのが、いちばん壊します。時間が無いときほど「ついでに良くしよう」が出て、宣言文を書き換えて、後ろを全部ずらします。
AIに直させるときは、発注の形を変える
修正をAIに任せるとき、頼み方をひとつ変えました。
悪い直し方 ── 「指摘された箇所を直しておいて」
良い直し方 ── 「指摘を直したあと、修正前と同じ観点で全体をもう一度検査し、新しく出た食い違いだけを一覧にして返して」
違いは、再チェックを発注の中に入れているかどうかです。前者だと、直った状態が返ってきて終わります。後者だと、直した副作用まで返ってきます。
私が使っている発注文は、だいたいこの形です。
「指摘一覧を反映してください。反映が終わったら、修正前と同じ観点でもう一度全体を検査し、新しく出た食い違いだけを一覧にして返してください。直した箇所の前後3段落も検査対象に含めてください。良くするための書き換えはしないでください。指摘された箇所だけ直してください」
作業の流れとして組む場合は、「修正」の工程の直後に「再チェック」の工程を置きます。人が思い出してやるのではなく、順番として固定してしまう。私の場合、十数件の壊れを見つけられたのは、たまたまこの形にしていたからでした。形にしていなければ、そのまま送っていました。
再チェックでやること
私が再チェックでかけているのは、この4つです。
① 機械で語を探す ── 「(記載なし)」「TODO」「未記載」など、埋め忘れの跡になる語を決めておいて、0件を確認する
② 宣言と中身を数える ── 「3つあります」と書いてあれば、実際に3つあるか数える。足し算は電卓を入れる
③ 観点を分けて検査する ── 元データとの一致/内側の整合/日本語と誤字/案内文と中身の一致。混ぜると片方しか見なくなる
④ 挙がった指摘を1件ずつ裏取りする ── 私の場合、検査で挙がったうちの3〜4割は誤検出でした。裏取りせずに直すと、正しい記述を壊します
④は面倒ですが、飛ばすと最悪です。誤検出をそのまま直すというのは、正しい箇所に手を入れるということで、それはこの記事で書いてきた「修正が生む壊れ」を、自分から作りに行く行為になります。
直す工程は、作る工程より偉い
私はずっと、品質チェックを「おまけ」だと思っていました。作るのが本番で、あとは確認するだけ。
逆でした。
作る工程は、失敗しても未完成なだけです。まだ外に出ていません。直す工程で失敗すると、完成したつもりのものが壊れたまま外に出ます。 事故になるのは、いつもこちら側です。
だから、直す工程にいちばん厳しい手順を置いています。修正したら、もう一度品質チェックする。それだけの話ですが、これを工程として固定するまで、私は何度も同じ穴に落ちていました。
今日、ひとつだけやるなら
今やりかけの資料や原稿を、直したあとに一度でも同じ検査をかけ直したか思い出してください。かけていなければ、15分だけ取って、直した箇所の前後3段落だけを読み直してみてください。
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この記事を書いた人
AI秘書と仕事を運用しています。
AI秘書のアリアと、製造役のもう1台のAIに、仕事の大半を渡しています。
私がやるのは、最後に決めることと、外に出す言葉を選ぶことです。
目指しているのは、稼ぐことそのものより、日々の面倒な確認や手戻りを減らして、家族と過ごす時間や休む時間を増やすことです。