前提を、実画面で確かめてから動く|「ずっと下書きのままだ」が事実誤認だった日
朝いちばん、私はAI秘書のアリアにこう投げました。
「なぜいつまでたっても下書きのままなんだ」
外部のサイトに出しているコンテンツが8本あって、そのうちの何本かがずっと下書きで止まっている。私はそう思い込んでいました。何日も放置されていると思っていたので、言い方もきつかったと思います。
返ってきたのは、こういう報告でした。
「一覧を開きました。8本すべて公開中です。下書きは0件です」
私の前提が、まるごと間違っていました。
無い問題を、直しに行くところだった
もしアリアが私の言葉をそのまま受け取って走っていたら、その日の午前中は「下書きを公開する」作業に使われていたはずです。
公開するものが1本もないのに、です。
下書き一覧を開いて、無い、と気づいて、探して、見つからなくて、私に「下書きが見当たりません」と聞き返す。そこまで1時間くらいは溶けたでしょう。しかもその1時間の終わりに残るのは、何も進んでいない画面です。
実際の問題は、別のところにありました。8本は公開されている。ただ、中身が古い。分類も揃っていない。表紙も昔のままでした。
つまり、やるべき作業は「下書きを公開する」ではなく、「公開中のものを作り直す」でした。作業の名前そのものが違っていたのです。
事実を先に出したことで、この切り替えは手を動かす前に済みました。
前提が違うと、作業の名前が変わる
私の記憶 ── 「まだ下書きのままだ」→ やる作業は「公開する」
実際の画面 ── 「8本とも公開済み」→ やる作業は「公開中のものを作り直す」
この2つは、手を動かす場所も、必要な時間も、完了の判定条件も、全部違います。前提を1つ確かめなかっただけで、その日ぶんの作業が別のものにすり替わります。
急いでいる指示ほど、前提が古い
これは自分でやってみて、はっきりわかったことです。
急いでいるとき、人は画面を見ずに喋ります。記憶で喋るので、私の頭にあったのは数日前にその一覧を開いたときの光景でした。
その数日のあいだに、アリアは公開作業を進めていました。その動きを私が知らなかったのです。私の記憶は更新されていなくて、画面のほうは更新されていた。ただそれだけのことです。
そして、急いでいるときほど、その食い違いに気づきにくくなります。焦りは「確認する」という工程を最初に削るからです。
だから私は、順番を逆にしました。
・急いでいない指示 → そのまま着手してよい
・急いでいる指示、語気が強い指示 → 最初に実画面を見る
普通は逆をやりたくなります。急いでいるんだから早く動け、と。でも、急いでいる指示のほうが前提が壊れている確率が高いので、確認を省くと結局いちばん遠回りになります。
確認は、一覧を1枚開けば済みます。数分です。存在しない問題を直しに行ったときの損失とは、桁が違います。
前提が違っても、作業を止めない
ここがいちばん大事なところだと思っています。
前提の間違いを見つけたときに、いちばんやってはいけないのは、こういう返し方です。
「下書きではありませんでした。どういたしましょうか」
これは、一見すると丁寧です。事実も報告しています。でも実質は、判断をこちらに投げ返しています。こちらは朝から怒っていて、しかも状況を正しく把握していない。そこに「どうしますか」と聞かれても、まともな判断は返せません。
正しいのは、こうです。
「下書きではありません。8本とも公開中です。中身が古いので、そのまま本文と分類と表紙の作り直しに入ります」
事実を出す。差分を出す。そして、そのまま続ける。止めない。
実際、この日はこの形で進みました。私は「わかった」と返しただけで、あとは作業が進んでいきました。私が新しく決めたことは、ひとつもありません。
前提が違ったときに返す3行
① 事実 ── 実画面はこうなっていました
② 差分 ── 指示との違いはここです
③ 続き ── なので、これを続けます(判断は求めません)
③があるかないかで、この報告は「役に立つ訂正」と「押しつけられた宿題」に分かれます。①と②だけで止めると、訂正した本人はえらいことをした気になりますが、受け取った側の仕事は増えています。
「無い」は、たいてい「まだ読めていない」
前提を確かめるようになると、今度は逆側の失敗が出てきます。
確かめには行った。画面も開いた。でも、読み違えた。
私はこれで一度、大きくやらかしています。
動画の一覧画面を開いて、行が0件でした。それを見て「アップされていません」と断言しました。実際にはアップされていたのに、一覧を読めていませんでした。
一覧が空に見える理由は、いくつもあります。
・別のダイアログが上に被っていて、下の一覧が取れていない
・画面の描画が終わる前に読みに行っている
・前の画面の古い状態を掴んだままになっている
・そもそも表示が別のタブや別のフォルダに切り替わっている
どれも「無い」ではありません。「まだ読めていない」です。
見た目が同じなので、区別がつきません。0件の一覧と、読めていない一覧は、画面上ではまったく同じに見えます。
だから私は、こういうルールにしました。
・一覧の件数を根拠に何かを断言する前に、いったん読み直す
・読み直して、件数が0より大きいことを確認できたときだけ、その一覧を証拠に使う
・何度読んでも0のままなら、「0件でした」ではなく「読み取れていません」と書く
・実物を見ていないときは、「無い」ではなく「未確認」と書く
「未確認」と書くのは、格好悪く見えます。でも、未確認を「無い」と書いた瞬間に、相手は無いはずの作り直しを検討し始めます。それは相手の時間と判断力を、こちらの手抜きのために使わせている状態です。格好悪さとは比べものになりません。
AIに渡すときの指示文を、この形にした
同じ失敗を繰り返さないために、指示の出し方そのものを変えました。
前は、こう書いていました。
「まだ下書きのままだから、公開して」
いまは、こう書きます。
「下書きのままだと思っている。まず一覧を開いて実際の状態を見て、私の認識と違っていたら事実を先に報告して。違っていた場合でも止めずに、本来やるべき作業を判断して続けて」
長いですが、この差は大きいです。指示の中に「私の認識は間違っているかもしれない」という余白が入っているので、受け取った側が事実を優先できます。
ポイントは3つです。
① 自分の認識を「事実」ではなく「認識」として渡す
② 食い違ったときに何を先にするか(報告)を決めておく
③ 食い違ったときに止めるかどうか(止めない)を先に決めておく
③を書いておかないと、律儀な相手ほど止まります。止まって、聞き返してきます。これは相手が悪いのではなく、こちらが「止まっていいのか」を決めていないからです。
これは、AIに限った話ではない
書きながら気づいたのですが、この構造はAIとのやりとりだけの話ではありません。
・「あの請求書、まだ出していないよね」と外注さんに言う前に、送信済みフォルダを見る
・「あの申請、通っていないはずだ」と思ったら、申請サイトの状況画面を開く
・「あの件は返事をもらっていない」と言う前に、検索してから言う
どれも、確認は1分かかりません。それをせずに口に出すと、相手は「出していない前提」で動き始めます。二重に出す、探し直す、謝る。その全部が、こちらが1分をけちったせいで生まれた仕事です。
私は自分の記憶をあまり信用していません。作るところは楽しくやれるのに、その後どうなったかを覚えていられないタイプです。だから、記憶を鍛える方向ではなく、記憶で喋ったときに受け止めてもらえる仕組みのほうを作りました。
関所役のAI秘書に、いちばん最初にやってもらうのは、私の前提の検算です。私が正しいかどうかを確かめてもらってから、作業が始まります。
確かめる時間は、作業時間に含める
最後に、時間の話をします。
「前提の確認をしていると遅くなる」と思われがちですが、私の場合は逆でした。
確認は、一覧を1枚開くだけです。長くて数分。それに対して、前提を外したまま走ると、走った分がまるごと消えます。しかも消えたことに気づくのが遅いので、気づいたときには半日たっています。
さらに厄介なのは、外した作業には「終わった感」がないことです。手は動かしたのに、画面は何も変わっていない。この感覚は、次に着手する気力をかなり削ります。私はこれで何度も、その日の残りをまるごと落としました。
だから確認は、作業の前に置く別工程ではなく、作業時間の中に含まれるものとして数えています。見積もりを出すときも、確認の数分は最初から入れています。
私の運用は、いまこの3つで回っています。
・語気が強い指示、急ぎの指示ほど、着手前に実画面を1枚見る
・「無い」「まだ」「未着手」と書く前に実物を開く。開いていなければ「未確認」と書く
・前提が違っていたら、事実を出したうえで、止めずに本来の作業を続ける
3つとも、特別な道具は要りません。要るのは、開く前に決めておくことだけです。
今日、ひとつだけやるなら
いま「まだ終わっていないはず」と思い込んでいる案件を1つだけ選んで、その状態がわかる画面を実際に開いてください。開いてみるまで、それが本当かどうかはわかりません。
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この記事を書いた人
AI秘書と仕事を運用しています。
AI秘書のアリアと、製造役のもう1台のAIに、仕事の大半を渡しています。
私がやるのは、最後に決めることと、外に出す言葉を選ぶことです。
目指しているのは、稼ぐことそのものより、日々の面倒な確認や手戻りを減らして、家族と過ごす時間や休む時間を増やすことです。